栃木県北部に広がる那須高原。 おしゃれなカフェや美術館が立ち並ぶリゾート地としての顔を持つ一方、那須連山の麓、湯本(ゆもと)エリアには、古くから「生き物を殺す石」として恐れられた場所が存在します。
第2回は、2022年に突如として「真っ二つに割れた」ことで世界的なニュースとなった怪石「殺生石」と、そこに漂う伝説の妖気を追いました。

栃木県北部に広がる那須高原。 おしゃれなカフェや美術館が立ち並ぶリゾート地としての顔を持つ一方、那須連山の麓、湯本(ゆもと)エリアには、古くから「生き物を殺す石」として恐れられた場所が存在します。
第2回は、2022年に突如として「真っ二つに割れた」ことで世界的なニュースとなった怪石「殺生石」と、そこに漂う伝説の妖気を追いました。
那須「殺生石(せっしょうせき)」は本当に割れたのか? 九尾の狐伝説と「その後」
那須湯本温泉のメインストリートを抜け、殺生石のある谷へ足を踏み入れると、空気が一変しました。 鼻を突く強烈な硫黄の匂い。そして、草木がほとんど生えない荒涼とした岩場。 ここは「賽(さい)の河原」とも呼ばれ、独特の荒々しい景観が広がっています。
この異様な風景こそが、数々のミステリーを生んだ舞台装置です。 辺りに充満するのは、地中から噴出する亜硫酸ガスや硫化水素などの有毒ガス。かつては、近づいた鳥や小動物がガスの影響で命を落とすことがあり、それが「石の呪い」として語り継がれてきた――というのが、科学的な側面からの定説です。
しかし、人の想像力は「ガス」という見えない恐怖に、もっとドラマチックな「顔」を与えました。それが「九尾の狐(きゅうびのきつね)」伝説です。
あくまで物語(伝承)の世界の話ですが、この石には平安時代末期、鳥羽上皇に仕えた絶世の美女「玉藻前(たまものまえ)」の正体であった九尾の狐が封じ込められていると伝えられています。 陰陽師によって見破られ、那須の地まで逃げ延びた狐は、討伐軍によって退治された後も毒気を吐く石となり、人々に恐れられました。その後、名僧・源翁和尚(げんのうおしょう)が石を打ち砕き、ようやく成仏させた……というストーリーです。
この「打ち砕かれた石の残骸」が、現在の殺生石であるとされています。 能や歌舞伎の題材にもなり、多くの創作物に影響を与えたこの伝説。しかし2022年3月、その物語に新たな1ページが加わりました。
「殺生石が、割れている」 SNSに投稿された一枚の写真をきっかけに、その事実は瞬く間に拡散されました。しめ縄が巻かれていた巨大な溶岩が、見事に真っ二つになっていたのです。
「九尾の狐の封印が解かれたのではないか?」「凶兆か、それとも吉兆か?」 ネット上ではオカルト的な憶測が飛び交いましたが、現地ガイドや専門家の見解は冷静です。 石にはもともと「ひび」が入っており、長年の雨水がその隙間に浸透。冬場の凍結と融解を繰り返すことでひび割れが広がる「凍結破砕」という自然現象によって、限界を迎えたというのが有力な説です。
しかし、現場に立つと不思議な感慨を覚えます。 800年以上語り継がれる妖怪伝説のシンボルが、私たちの生きるこの時代に「割れた」。 その偶然の一致が、単なる自然現象以上の意味を帯びて、見る者に迫ってくるのです。
割れた石はどうなっているのか? 妖気漂う谷のどこを見るべきか? ミステリーの余韻に浸れる撮影スポットをご紹介します。
遊歩道の最奥に鎮座する殺生石。 現在は割れた状態のまま保存されています。「パッカーン」と綺麗に割れた断面は、むしろ自然の力の凄まじさを感じさせます。 以前のような「しめ縄」がかけ直されている時期もあれば、ありのままの姿の時も。 「ここから狐が飛び出したのかもしれない」というアングルで、割れ目の中心を狙って撮影するのがおすすめです。
殺生石へ向かう斜面には、教伝地蔵(きょうでんじぞう)と呼ばれる大きなお地蔵様を中心に、数え切れないほどの小さなお地蔵様が並んでいます。 「千体地蔵」と呼ばれるこの光景は圧巻かつ、少し背筋が寒くなるような迫力があります。赤い頭巾を被ったお地蔵様たちが、一斉に谷を見下ろす構図は、モノクロ写真にするとより一層ミステリアスな雰囲気が際立ちます。
殺生石の入り口すぐ脇にある古社。 九尾の狐退治を祈願したという伝承も残る場所です。樹齢800年を超える「生きる(いきる)」という名のミズナラの巨木があり、殺生石の「死」のイメージとは対照的なパワースポットとして親しまれています。
硫黄の匂いとミステリーでお腹いっぱいになった後は、那須ならではの癒やしとグルメを。 車ですぐ行ける、おすすめの立ち寄りスポットを4つ厳選しました。
殺生石のすぐ隣。開湯1300年を誇る、栃木県最古の温泉です。 白濁した硫黄泉は強烈ですが、「これぞ温泉」という満足感は別格。昭和の風情を残す木造建築の浴場もフォトジェニックです(浴室内の撮影は禁止ですので、外観を楽しみましょう)。
殺生石から車で約5分。入場無料の観光牧場です。 ここの名物は、日本にわずかしかいない「ガーンジィ牛」のミルクを使った濃厚なソフトクリーム。硫黄の香りがついた体を、高原の爽やかな風と甘いスイーツがリセットしてくれます。
場所: 那須郡那須町湯本579
さらに山を登りたい方はこちらへ(冬季運休あり)。 関東平野を一望できる大パノラマが楽しめます。殺生石を生み出した那須岳(茶臼岳)がいかに巨大な火山であるかを体感でき、ミステリーのスケール感が変わります。
那須街道沿いにある、バリ島やベトナムなどの雑貨・グルメが集まるミニテーマパーク。 異国情緒あふれる怪しい石像や不思議なオブジェが点在しており、「ミステリーロード」の不思議な気分を持続させたまま買い物が楽しめます。エスニック料理も人気。
場所: 那須郡那須町湯本ツムジガ平506-20
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※当記事の内容は、一つの見解としてご参考ください。
※当記事で紹介している内容は、2025年12月10日時点の情報です。ご利用の際は、必ず公式サイトなどで最新の情報をご確認ください。