天平の古刹、鑑真和尚ゆかりの寺院「龍興寺」
栃木県下野市、かつて仏教の戒律を学ぶ「東国の大学」と称された下野薬師寺跡のほど近くに、奈良時代の歴史を今に伝える古刹「龍興寺(りゅうこうじ)」はあります。日本に仏教の戒律を伝えた鑑真和尚が開いたとされ、境内には数多くの史跡や文化財が点在し、訪れる人々を天平の時代へと誘います。
龍興寺は、正式には「舎那殿壇 生雲山 龍興寺(しゃなでんだん しょううんざん りゅうこうじ)」と号する真言宗智山派の寺院です。その歴史は古く、寺伝によれば奈良時代の天平宝字5年(761年)、幾多の苦難を乗り越えて来日した鑑真和尚が、下野薬師寺の別院として開基したと伝えられています。
かつては下野薬師寺の正統をめぐり安国寺と争った歴史も持ちますが、現在は鑑真和尚の墓所を守護する寺院として、法灯を静かに守り続けています。
境内には、歴史の教科書にも登場する人物ゆかりの史跡が数多く残されています。
境内の見どころ
- 道鏡塚(どうきょうづか)(下野市指定史跡) 本堂のすぐそばにある小高い円墳は、奈良時代の高僧でありながら、称徳天皇(孝謙天皇)の寵愛を受け権勢を振るい、のちにこの下野の地へ左遷された道鏡の墓と伝えられています。直径約38mのこの古墳は6世紀末頃に造られたものと考えられており、いにしえの歴史に思いを馳せることができる場所です。
- 鑑真和尚碑(下野市指定史跡) 境内墓地の一角には、鑑真和尚の遺徳を偲び、弟子たちが建立したとされる供養塔が静かに佇んでいます。その傍らには、鑑真和尚が中国から持ってきた杖が根付いて大きく育ったと伝わる菩提樹の木がそびえ、深い信仰の歴史を物語っています。
- 龍興寺のシラカシ(栃木県指定天然記念物) 本堂の傍らに立つ、樹齢約500年、高さ20mを超えるシラカシの巨木は、寺の長い歴史を見守ってきたかのように雄大な姿を見せています。
このほかにも、美しい音色を奏でる水琴窟や、十二支それぞれの守り本尊が祀られており、心静かにお参りすることができます。
貴重な文化財
龍興寺には、歴史的・文化的に価値の高い寺宝が数多く伝わっています。
- 銅造誕生釈迦仏立像(栃木県指定文化財)
- 紙本着色涅槃図(下野市指定文化財)
- 阿弥陀如来種字板碑(下野市指定文化財) など
鑑真和尚と道鏡という、日本の歴史における二人の重要人物の足跡が交差する龍興寺。下野薬師寺跡や天平の丘公園とあわせて訪れれば、より一層、この地に息づく天平文化の奥深さに触れることができるでしょう。